新約聖書に関連する古代ローマ帝国の階級社会について解説します。新約聖書をより深く学ぶために重要なトピックです。
ローマ帝国の軍隊
ローマ帝国は、軍隊を使って各地域を支配下に置きましたが、働きはそれだけではありません。軍隊によって各地域の治安を保ち帝国に平和をもたらしました。ローマ帝国内を人が自由に行き来することができるようになりました。結果的に貿易が盛んになり、経済成長に貢献していました。
軍隊の単位について説明します。レギオン=6000人です。この6000人は次のように細分化されていました。1コホートは、600人の軍人からなり、10コホート集まってレギオンになります。1コホート600人は、さらに100人単位で細分化されます。100人の兵隊に1人の百人隊長が任命されていました。マルコ5章9節に百人隊長が出てきます。
新約聖書には、軍人を使ったたとえがよく出てきます(ルカ14章31-32節、エペソ6章13-16節)。それだけ一般市民が、軍人を身近に知っていたことを表しています。
貧富の差による階級
ローマ帝国社会は、所有財産によって分けられる階級社会でした。まさに「金が物を言う」社会です。ローマの貴族社会は元老院と騎士から成り立り、それぞれ定められた最低限の財産を所有している必要があったのです。
おそらく、ユダヤ社会も同じような階級社会があったに違いありません。福音書には、貧しい人たちが主イエス・キリストのもとにパンを求めて集まってきたと書かれていますが、この人たちはどこにも行く場がなかったのです。
ローマ帝国の市民権
ローマ帝国の市民権は、ローマへの忠誠のために使われていました。ローマ市民権には、ローマに直訴する権利(使徒25章10-12節)とひどい刑罰から逃れられる権利(使徒16章22節)が付与されていました。しかし、それ以外、特別な権利が付与されている訳でありません。むしろローマ市民権は、名誉と考えられていたようです。
パウロがローマ市民であることを知った千人隊長と部下たちは、パウロを縛ってしまったことを恐ろしくなったと書かれています(使徒22章28-29節)。それというのもパウロは、生まれながらローマ市民権を持っていたからです。
ローマ帝国の市民権は、4つの場合に与えられました。1.親がローマ市民である。2.ローマにおいて奴隷が自由になった。3.ローマ帝国のために特別な事をした。4.軍隊で兵役を済ました。パウロは、トロアスの市民であり(使徒21章39節)、ローマの市民でした(使徒22章26-27節)。このように地方都市の市民権と帝国の市民権を同時に持つことが可能でした。
奴隷制度
奴隷制度は、ギリシャ帝国とローマ帝国において異邦人社会、ユダヤ社会問わず広がっていました。戦争中は、戦争の捕虜が奴隷になっていましたが、帝国内が平和になると捕虜でなく、貧しい人たちが奴隷になったのです。奴隷の子供も、当然のごとく奴隷として働かされました。首都ローマでは、5人に一人が奴隷であったとい記録が残っています。
主人は、奴隷を単なる物と扱い、非常に安い賃金で働かせました。法律的に、この賃金は主人のものでしたが、主人によっては奴隷が使う事も許していました。その賃金を貯めて、奴隷から自由になる人もいたのです。
奴隷は、一般の労働者として使われる場合もありましたが、家族・家庭に仕える奴隷もいました。新約聖書の手紙では、親・子供の家族の関係と合わせて、主人と奴隷の関係がどのようにあるべきか言及されています(エペソ5章—6章)。これはおそらく家族に雇われている奴隷ではないかと思われます。使徒パウロは、クリスチャンになった奴隷またはクリスチャンになった主人に、主の愛によって隣人を愛すように接しなさいと戒めています。
保護、庇護関係
ローマ帝国では、非常に特殊な関係が存在していました。それは保護、庇護関係です。ローマ社会特有のものだと思われます。ユダヤ社会に広がっていたかは分かりません。主人と奴隷の関係、軍人の上下関係、金持ちと貧しい人の関係で、主従関係の契約を交していたのです。従う人は、法的に守られる代わりに、主人を敬うことが求められていました。名誉を重んじるローマ社会の特徴が表れていると私は思います。
新約聖書の背景
- 使徒パウロの宣教とその背景
- 新約の背景と1世紀の哲学
- ローマ帝国の家族構成
- 古代ローマ帝国の経済社会
- 新約聖書の背景とユダヤ教の発展
- 古代ローマ帝国の宗教
- 新約聖書の背景とローマ帝国の道徳感
- 新約聖書の背景とユダヤ教の信仰と行い、
- ユダヤ教の発展と教派
- 新約聖書の背景と中間時代
- 外部リンク ローマ帝国
参考文献
- Ferguson, Everett. Backgrounds of Early Christianity, 2nd ed. Grand Rapids: Wm B. Wwedmans, 1993.
- 桜井万里子、木村凌二。ギリシャとローマ。世界の歴史、第五巻。中央公論社、1997年。
- 村川堅太郎。ギリシャとローマ。世界の歴史、第二巻。中央公論社、1995年。
- 島田誠。古代ローマの市民社会。山川出版、1997年。
現代では想像しにくい奴隷制度ですが、古代ローマでは5人に1人が奴隷だったんですね。奴隷というものが如何に身近なものだったのか分かります。当時の社会において隣人を愛しなさいという主の戒めは画期的なものだったんだろうなと思わされます。
おっしゃる通りだと思います。身分や地位を分け隔てせず、自分のように人を愛す事、人生の原則ですね。
奴隷は自分を低くするしか生きる術がありませんでした。そのような人々に主イエス様が声をかけて生きる希望を与えてくださいました。でも人はそれぞれの立場で、奴隷状態になっている時があるような気がします。そこに今でも、主イエス様は手を差し伸べて下さっていることに感謝します。大浦兄弟姉妹と共に、いっしょに成長して良ければ幸いです。